放置できない「マンションの空き住戸問題」、管理組合の対応策はコレ

マンションの空き部屋 管理組合の運営
マンションの空き部屋

この記事を読んでいただく皆様、水の拡散現象をご存じでしょうか?

絵具がついた筆を水がたまったバケツに入れます。そうすると、筆を動かさなくても次第に絵の具がバケツ全体に広がっていきます。これと同じことは、例えば大気中に有害物質が放出され広がったり、火山灰が上空に広がったり等、色々な場面で見られます。

このことは人の行動にも表れます。竣工当初、一つのマンションに住んでいた方々が、時が経つにつれ、ご家庭の事情、仕事の事情等で、マンションを離れて暮らすようになります。中にはマンションを手放したりする方もおられるでしょう。

このように、分譲マンションは築年数の経過とともに、区分所有者本人がマンションに住まなくなる不在住戸化が進んでいくのが通例です。

人が住まなくなった住戸が増えてくると、緊急時の問題や、管理上も問題がでてきます。今回は、緊急時の対応遅延や管理不全を引き起こしやすく管理組合運営に影響を及ぼす不在住戸(空き家)について、どのように対応していったらよいのか、具体的な事例を交えながら、実務的な対応方法を解説します。

この記事は次の人におすすめです
・不在住戸を多数抱える管理組合役員の方

・不在住戸の増加による役員の成り手不足に悩まれている方
・不在住戸から発生する臭い、虫の被害に悩まれている方
・漏水事故等、緊急時の対応に不安を持っている方

スポンサーリンク

不在住戸化による問題と対策

公益財団法人マンション管理センターより「管理組合のためのマンション空き住戸対応マニュアル」が発行されています。不在住戸対応について、マニュアルが整備されていますので、是非参考にしてみてください。

公益財団法人 マンション管理センター「管理組合のためのマンション空き住戸対応マニュアル」
vacantroommanual.pdf (emkanri.com)

(1)緊急時の対応遅延

マンション内で火災や漏水事故が発生した際、住民が不在の為、対応が遅れて被害が拡大することがあります。

例えば上下階で漏水事故が発生した場合、被害住戸の下階に入室できなければ、住戸内の被害状況もわかりません。また被害復旧の際に支障がでます。

(2)共用部分の管理不全

マンションでは、設備の点検や住戸内を経由しないと実施できない工事等の為、区分所有者の承諾や入室が必要になってくる場合がありますが、区分所有者が不在のため、設備点検や工事が困難になることがあります。

例えば、火災警報や漏水警報が発報され、警備員が駆け付けても、施錠されていれば住戸内に入れません。入室できなければ、被害が広がる事態に発展しかねません。

また、ベランダの雨どいから漏水しているのが発見され、直上階が不在住戸であったとします。不在住戸のベランダに入室し調査を行いたい場合、その住戸内を通らねばなりませんので、不在住戸の許可を得て入室することとなりますが、連絡が取れない、遠隔地にいる為開錠できない等、スピーディに行えない場合があります。

他にも、不在住戸のベランダに鳥や蜂が巣を作った際の対応、小動物の死骸の処理、他にも集合郵便ポストがいっぱいになる場合等、異変が発生していても、すぐに対応できない場合が考えられます。

 

部屋に人が住んでいないことで日常管理や緊急時のスムーズな対応に支障がでるんだ。

(3)専有部分の管理不全

トイレや台所の排水トラップの封水が蒸発し(いわゆる封水切れ)、排水管内の空気が部屋に入り込み悪臭の原因になることがあります。この場合、トイレの蓋を締める、便器にラップをする、また排水管用の特殊蒸発防止剤を使う(ホームセンター等で入手可能)ことなどで、ある程度対応することが可能です。

部屋内の換気が不十分になることから、湿気が籠り、カビや害虫の原因になることがあります。24時間換気システムを備えているマンションは必ず使っていただくよう要請することや、定期的に住戸内の換気をしてもらうよう啓蒙してもよいでしょう。

マンションの外に居住している人であっても、最低年1回は通常総会の開催の資料を郵送する機会がありますので、その際、注意喚起・啓蒙も図ってもよいのではないでしょうか?。

(4)役員の成り手不足

管理規約で、役員になれる資格に、「現に居住していること」を条件にしている場合、不在オーナーには役員資格がないため、役員の成り手候補が減少します。また、「現に居住していること」を条件にしていない場合でも、遠方に住んでいるため、実質的に役員活動が困難で、役員を務められないことがあります。

<役員の成り手不足解消対策>

役員の成り手不足を解消する方法として、遠方に住んでいても、WEB会議システムを使って理事会、総会に出席できるようにすることが挙げられます。令和3年度改正された国土交通省管理規約では、WEB会議システムでの会議の招集、開催等ができるよう改正されています。役員の成り手不足に悩まれている組合は是非検討してみてください。

また「平成30年マンション総合調査:外部役員を選任する意向・理由」の中で、役員の成り手不足が、36.5%を占めることから、外部の専門家を選任することも選択肢の一つとして考えてもよいでしょう。

~実際はどうでしょうか?~

マンションに興味関心があれば、遠方であっても参加していただける場合が多いです。要は、本人のやる気次第です。

マンションの外に住まれている場合は、どうしても興味が薄れがちです。所有権を持っているだけで住んでいなければ、関心も薄れていってしまうのですね。

いままで役員になるのを免れていて、楽をさせてもらっていると考えているマンション外組合員に、役員に就任してもらうのは、並大抵の努力ではありません。

WEB会議システムを導入した際、強制的にマンション外組合員にも、輪番制で回すようにするよう、総会決議で決定するなど、対策が必要になると考えています。

(5)管理情報の周知が不十分

マンション内の掲示や投函物は管理情報を伝達する重要なツールです。これら掲示物は、マンション外部所有者に行きわたりませんので、不在住戸への周知が不十分になりがちです。郵送する場合でも郵送料等がかかり、時間とコストがかかります。

<解決のヒント>

解決方法のヒントは電子化・システム化です。

 [クラウドシステムの導入]

マンション専用のクラウドシステムを導入し、情報共有を図ることが考えられます。

●理事会議事録の閲覧、マンション内の掲示板の表示、各種イベント開催等の情報共有を通じて管理情報をマンション外組合員に行きわたらせることができます。

 [メールでのアラート・LINE等でのプッシュ通知等]

能動的にシステムにアクセスして情報を得るだけでなく、アラートやプッシュ通知等、気づきやすい仕組みを構築するのも、情報格差を埋める有効な手段と言えます。

(6)組合活動への関心が低下

マンション外部に住んでいる組合員は、どうしても組合活動への関心が低下します。総会への出席はおろか、議決権行使書も提出しない組合員が多いです。これが困るのは、管理組合の総会運営に支障を生じる場合があることです。

特に、重要な議案(管理規約の改正や、敷地及び共用部分等の変更)は、組合員総数及び議決権総数の4分の3以上の賛成で承認となる為、出席もせず議決権行使書も提出しない場合棄権となり、重要な議案が通らない場合があります。

これに対応する方法としては、WEB会議システムが有効でしょう。実際に開催場所に行かなくてもWEB会議システムを使って遠隔で参加できます。また、電子投票ができれば組合運営に参加する機運を醸成できるでしょう。

(7)管理費等・使用料等の不公平感

施設利用料の中で、管理運営分担金や防犯カメラ施設利用料等などの名目で区分所有者全員から徴収している場合、不在オーナーから異論が出される場合があります。共用部分を使用しない不在オーナーにとっては、不公平感があるのでしょう。

(8)使用料収入の減少

不在オーナーで駐車場契約や、トランクルーム使用契約を締結しない場合等、見込んでいる収入が得られず管理組合の収支に影響を及ぼす場合があります。

ただし、賃借人が居住している場合はこの限りではありません。

(9)管理費等の滞納

不在オーナーだからと言って、管理費等の滞納が発生しやすいわけではありませんが、直接面談しての督促が難しいこと、連絡がつきにくい若しくは、所在不明・相続人不確知の為請求する相手がいない場合であれば、労力と金銭的負担がかかります。

<労力と金銭的負担がかかる具体的な事例>

このような事例があります。

●滞納金請求裁判で管理組合と該当区分所有者が和解し、滞納金を分割して支払うこととなりました

●和解後該当区分所有者が、管理組合に届出せず、引っ越しをしました。

●弁護士・裁判所を通じて所在地は判明しましたので、その後の督促や回収するため、何度も引っ越し先に足を運ぶことになりました。

(10)その他、治安上の問題やコミュニティ活動への影響

不在住戸には人が住んでいないので、どうしても治安上の問題が起こりやすくなります。コミュニティ活動への参加住戸が少なくなれば、活動自体に影響します。

空き住戸の発生原因別対応策

空き原因を分析するだけで、空き住戸を少なくすることは難しいです。

しかし、空き住戸が発生することで、生ずる可能性のある問題点を事前に把握しておくことは、管理組合の運営にとって役立ちます。

組合員が長期不在となる場合、「長期不在届出」をもって届け出ることとしている管理組合は多いでしょう。マンション管理センターのテンプレートには、不在中の連絡先の他、不在期間、管理費等の納入者、不在時の鍵保管者を記入することなっていますが、加えて「不在理由」を記入していただくよう書式を改訂しておくと今後の対策に役立ちます。

組合員が不在になる場合、必ず長期不在届け出を提出してもらう。その際、「不在理由」は、対策を立てる上で重要です。

公益財団法人マンション管理センター 参考様式 ダウンロード書式目次 (mankan.or.jp)

不在理由の分析の重要性 ~不在理由別の対応策~

管理組合が組合員の不在理由を知っておくことは、対策を立てる場合とても役立ちます。上記「長期不在届」届け出時に記入してもらいましょう。

<☆注意点>

管理会社は守秘義務がありますから不在理由(転居理由)は、管理組合に知らせません。
ただし、通常マンションの管理者である理事長は、申請書を通じて知り得ることができます。名前や部屋番号など個人情報に配慮しながら、理事会等で審議材料として活用し、不在住戸対策に役立ててください。

①転勤・家庭の事情等、やむを得ない事情

そのマンションを購入したということは、気に入って買ったものですから、そうそう手放したくはない、しかし、仕事の都合で引っ越しや単身赴任せざるを得なかった。家庭の事情で引っ越しせざるを得なかった等、やむえない事情で引っ越しすることはあります。
これらは止むを得ない事情で、防ぎようがありません。

転勤は、本人の収入等の減少等を伴わない場合が多く、将来的に戻ってくる可能性を見越して、売却や賃貸もせずに空き住戸にしておくことも往々にしてあります。この場合は、将来的に自分が住むことを想定しているため、管理費等の滞納の懸念及び管理不全の問題は少ないと思われます。

単身赴任は、形式的に所有者本人は不在になるものの、家族が引き続き住むことになるため、管理不全の問題は少ないと思われますし、理事会等への代理出席を認めている場合は役員就任も可能です。

★管理組合の業務の範疇ではない
●仕事の事情 → 帰ってくる見込みはあるのか、単身赴任なのか、家族帯同なのか、また不在時、途中途中で帰ってくるのか否か
●家庭の事情 → 別居なのか、他の理由があるのか等、わかる範囲で把握

②居住環境の悪化

マンションは、一つの建物に多種多様な人間が暮らす為、トラブルには事欠きません。

<騒音トラブル>

上下階の騒音、子供の遊ぶ音、楽器やオーディオの音、諸々の生活音、色々手を尽くしたが改善しない、心身ともに疲れ、精神的に苦しい日々を送るようなると、引っ越しを選択されるケースは多いです。

★管理組合の努力で改善可能
対策:管理組合として、騒音の改善に取り組みましょう。原因究明、啓蒙活動、挨拶運動の住民同士の人間関係をよくする試み等、を始めてみましょう。

③住民同士のトラブル

変人が住んでいる、奇行等、顔を会わせたくない人がいる、ゴミ屋敷がある、なども引っ越し原因になります。

大声でわめき散らす、変な集団がマンション内にいる、部屋の中が異常に汚い、異臭を発している等、同じマンションに住みたくないと思うでしょう。

★管理組合の努力で改善可能
対策:注意喚起、警告、面談を行っても解決しない場合、警察など、公共機関へ通報する等対応しましょう。

④犯罪等の危険性があると判断した時

危険回避の為です。

⑤自己破産等、法的整理によるもの

これは法的な問題です。専門家による回答を得るようにしてください。

一般的には、自己破産後、管理費等の債権は新所有者に請求できますので、管理費等未納の問題はなくなるでしょう。

⑥売却・賃貸が困難によるもの

空き住戸の購入者や賃借人を募集しても、新たな入居者が見つからず、長期間、空き住戸のままになっていることがあります。
築年数が古い、市場に見合った価格で募集していない、立地条件が悪い、管理状態が悪く建物の不具合がある等の原因が考えられます。
必要な修繕がされていない、長期修繕計画が更新されていない等が原因の場合、管理組合として対応する必要があります。

★必要な修繕や修繕計画等の作成等、必要に応じて行って下さい。
●売却又は、賃貸に供しようとする募集期間、管理不全に落ちいる可能性があり、施錠や空室管理を行っているか、万一の連絡先はわかっているか等注意してください。
●居住又は賃貸に供していないにも関わらず、管理費等の支払いは求められるため、区分所有者のお荷物となっているケースです。
売却された場合、管理費等は新所有者に請求できますが、賃料(家賃)収入を管理費等の支払いに充てていた場合、空室が続くと滞納に繋がるリスクがあります。

⑦ 賃借人転居後や相続後の放置

空き住戸が放置される理由は、利用方法が決まっていないか、利用意思が弱いため、また、管理コストが安い場合、積極的な利用への動機づけが働かない(ほおっておいても管理費も安いしこのままにしておくか等)ことが挙げられます。

他には、共有物件で意思統一できずに放置されること

→ 相続人が数人いて、共有財産となった場合、売るか貸すかで揉める場合もある

相続物件では残置物の処理負担や手間の問題から放置されることが挙げられます。
→誰が部屋の荷物を片付けるのか、整理するのか、その負担割合は?等、

 

管理組合としてできることは、連絡体制の確保です。

⑧ 高齢者施設等への入居(所有者の管理能力不足)

高齢の区分所有者が施設に入居して住戸を使わくなった場合です。また、高齢になると管理能力が不足し、売却や賃貸等の対応が難しくなる、家財道具が残されたり管理費滞納が起こる可能性があることが懸念されます。

管理組合としては、連絡体制の確保が大事です。郵送先も今もままでよいか、親族の方で窓口になっていいただける方がいらっしゃらないか、確認しましょう。

⑨ 所有者の所在不明

所有者が何らかの理由で所在が分からなくなり、空き住戸として放置されるケー
スがあります。

不明の区分所有者について、不在者財産管理人を選任して管理費を請求することができますが、マンション以外の財産がなければマンションを売却して滞納管理費を得る必要があります。

★管理会社に相談する、顧問弁護士に相談する等対応してください。家族、親族等、緊急連絡できるようにしてください。

また、所在不明者であっても、総会議決に加わることから、重要議案が承認されないことがあるなど、管理組合の運営に支障をきたす場合があります。

管理会社及び弁護士へ相談し、早めに対応しましょう。

⑩ 相続人の不存在・未確定

相続人がいない場合、管理組合などの申し立てにより相続財産管理人が選任されます。

また、相続法定相続人がいる場合でも、協議が整わず当該住戸の相続人が決まらないため、利用されずに空き住戸となっていることがあり、相続人が決まるまでの間、法
定相続人が管理に無理解だと管理に影響がでてきます。

住宅の財産価値が低かったり、被相続人に他の債務あるなど、相続放棄された場合は処理が困難になり、未確定期間が長期にわたることもあります。

また、相続人がわからない場合は弁護士に調査を依頼する必要があります。

管理会社又は弁護士に相談しましょう。また、万一の場合に備えて連絡窓口を確認しておきましょう。

最後まで読んでくれて、ありがとうございました。今後の運営改善に生かしていきたいと思います。感想、疑問、指摘などなんでも結構です。是非コメントをお願いします。(一番下です)

SNSでフォローして、是非仲間になりましょう。

コメント